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ひちやぎホテル三重は実在する?雨穴作品の舞台と真相を徹底解説

By William Brown

ひちやぎホテル三重は実在する?雨穴作品の舞台と真相を徹底解説

三重県の夜景と廃ホテルのイメージ

「ひちやぎホテル三重」と検索すると、SNSや考察サイトに膨大な書き込みが並ぶ。心霊スポットなのか。廃墟なのか。それとも実際に宿泊できる場所なのか。気になって調べ始めると、次第に奇妙な事実が浮かんでくる。結論を先に言えば、このホテルは三重県には存在しない。しかし、なぜここまで多くの人が「実在するはずだ」と信じ込むのか。その答えはひとりの作家の、途方もない創作力にある。

「ひちやぎホテル三重」とはどこから生まれた名前か

発端はウェブマガジン「オモコロ」に掲載されたホラーミステリー作品だ。記者の新谷がホテルに宿泊した際に遭遇した不思議な出来事から物語が始まる。宿泊したホテルの近くで事故が起こり、その事故で亡くなったのは殺人事件の容疑者で、トランクから行方不明だった被害者の遺体が発見される。そこから展開される謎の連鎖が読者を引きずり込む構造になっている。

物語によれば、登場人物の新谷は2019年9月7日に三重県の須賀原という場所を訪れ、取材が早く終わったため「ひちやぎホテル」に宿泊することにした。周囲に何もなく寂しい場所で、電気代の節約なのかライトアップもなく雰囲気が暗かったとされている。この描写のリアルさが、多くの読者に「実際に体験した話ではないか」と錯覚させる。

作品を書いたのは雨穴(うけつ)さん。「変な家」「変な絵」などヒット作で知られるホラーミステリー作家で、現実とフィクションの境界を意図的に曖昧にする語り口が最大の特徴だ。読んでいる間、つい「これは本当の話かもしれない」と感じさせる。その筆力は、今回のひちやぎホテルをめぐる混乱からも明らかだろう。

実在しない地名「須賀原」と、存在しないホテル

「ひちやぎホテル」は完全に創作された存在であることが、様々な調査で明らかになっている。物語の舞台とされる「三重県須賀原(すがはら)」は、地図にも役所の記録にも見当たらない。「須賀利」や「菅原」という場所は実在するが、「須賀原」は作者が考案した架空の地名だ。

Googleマップで調べても該当する場所や建物の痕跡は一切見つからない。「昔はあったけど今は閉業したホテル」ではなく、最初から存在しないホテルということだ。これは重要なポイントだ。廃業したホテルであれば、閉業後もGoogleマップの衛星写真や地名タグに何らかの痕跡が残ることが多い。しかし「ひちやぎホテル」はいかなる記録にも登場しない。

三重県の深い山林と星空のイメージ

作中では「ひちやぎホテル」を示すマップのスクリーンショットも掲載されているが、それも自作したものと考えられる。ただし物語のラストで判明する倉辺誠二たちの出身地「三重県川越町」だけは実在していた。架空の地名と実在の地名を巧みに混在させる。この手法こそが、作品に強烈なリアリティを与えている秘密だ。

作中に登場する心霊動画もすべて創作だった

物語の中で、雨穴さんはひちやぎホテルの心霊情報を調査する過程で、YouTubeチャンネルの廃墟探索動画にたどり着く。「ファレ兄のJAPAN廃墟探索」というYouTubeチャンネルは実在せず、チャンネルの画像やひちやぎホテルの心霊動画もすべて雨穴さんが作ったものだった。

この徹底した作り込みは尋常ではない。架空のホテル、架空の地名、架空のYouTubeチャンネル、架空のスクリーンショット。それらすべてがひとつの物語世界を構成するために用意されている。読者が「本当のことかもしれない」と感じるのは当然で、むしろそう感じさせることが作品の目的のひとつでもある。

雨穴さんの作品は中だるみせずにテンポよく謎が解決していくところが特徴で、序盤にちりばめられた謎が最終的にすべて解決するので読後感がすっきりする。ホラーでありながら論理的に完結するこの構造が、幅広い層に受け入れられている理由だろう。

「あの日、彼らは何をした」の物語構造と作品の魅力

雨穴さん自身は、今回の作品タイトルがまさきとしかの小説『あの日、君は何をした』から影響を受けたものであることを認めている。特に前半の描写が強烈で、著書『変な絵』を書く際にも参考にしたという。作家として自らの創作の源をオープンに語っているのは、読者との誠実な関係を大切にしている姿勢の現れでもある。

ストーリーの展開は予想できない方向に進み、ハラハラドキドキしながら読み進められる仕掛けになっている。読み始めると途中でやめられない。それはひちやぎホテルという謎の場所が、物語全体の軸として機能しているからだ。架空の舞台なのに、読後には「あの寂しいホテルは実在したのではないか」という感覚が残る。それが雨穴作品の本質的な怖さだ。

日本のホラーミステリー小説のイメージ

なぜ人々は「ひちやぎホテル三重」を実在と思い込むのか

人間の認知には「具体的なディテールがあると真実に感じやすい」という特性がある。2019年9月7日という具体的な日付。須賀原という地名。新聞記事の切り抜き。Googleマップのスクリーンショット。これらがそろって初めて、読者の脳は「体験談だ」と判断し始める。

結論から言えば、「ひちやぎホテル」はフィクションの舞台であり現実には存在しない。しかしそのリアルすぎる描写に多くの人が「本当にあるのでは」と錯覚してしまうのも無理はない。SNS上では今でも「三重に行ったときに探してみた」「実際に見た人がいる」という書き込みが散見される。フィクションが都市伝説になるプロセスを、リアルタイムで目撃しているような感覚すら覚える。

こうした現象は「ARG(代替現実ゲーム)」的な体験に近い。現実と虚構の境界を意図的にぼかし、読者自身が謎を調べ、考察し、拡散する。その一連のプロセスも作品体験の一部になっているのだ。

三重県を舞台にした理由と、地域のリアリティ

三重県は伊勢神宮や志摩半島、松阪牛など観光面では非常に豊かな魅力を持つ地方だ。一方で山間部や半島の先端部には、人里から離れた静かな場所も多く点在する。

SNS上では「ひちやぎホテル三重」と関連して「志摩での最高の宿泊体験」や「三重オールインクルーシブ宿」といったキーワードとセットで語られることもある。これは架空のホテルが、現実の三重県観光と混在して検索されていることを示す。物語の影響力が地域のイメージにまで波及しているのだ。

三重県南部の自然環境は確かに「人里離れた寂しいホテルが存在しそう」な雰囲気を持っている。リアス式海岸が続く海岸線、深い森、点在する集落。その地理的な質感が、架空のひちやぎホテルにリアリティを与える土台になったと考えられる。

作品を読む前に知っておくべきこと

「ひちやぎホテル三重」を検索した人の中には、実際にそのホテルへ宿泊しようと考えている人もいるかもしれない。はっきり言えば、予約できるホテルは存在しない。しかし雨穴さんの作品『あの日、彼らは何をした』はオモコロ上で無料公開されており、誰でも読める。書籍よりは短編だが、かなり読みごたえがある作品で、大体30分あれば読み終えることができる。

読み終えたあとに「ひちやぎホテルは実在する?」と検索し直したくなるのは、ほぼすべての読者に共通する体験らしい。それだけ物語のリアリティが突出している証拠でもある。ミステリー好き、ホラー好き、考察好き。どの入り口からアプローチしても楽しめる作品だ。

実在しないからこそ、怖い

「ひちやぎホテル三重」が実在しないという事実は、逆説的にこの作品の価値を高めている。存在しない場所を、存在するかのように感じさせる。その技術こそが現代ホラーの核心であり、雨穴さんが日本のウェブ文学において特別な存在である理由だ。

三重県を旅するとき、深い山の中に一軒のホテルが見えたとしたら。すこし立ち止まって、この作品のことを思い出すかもしれない。それが創作の力だ。地図には載っていない場所が、記憶の中にだけ確かに存在する。ひちやぎホテルは、そういう種類のリアルを持っている。